日産の工場・本社売却は、単なる不動産取引ではなく、「国内生産の縮小」「単独再建への賭け」を象徴する出来事として、神奈川の都市構造にも大きな影響を与えつつあります。本日はそのことについて、自分なりの考えや事実を整理してみました。
日産の不動産売却ラッシュという文脈
日産は巨額の赤字とEV投資負担に直面し、国内外で大規模な合理化と資産売却を進めています。
その中核にあるのが、神奈川県内の象徴的な拠点――追浜工場・湘南(平塚)工場、そして横浜みなとみらいのグローバル本社ビルという、いわば「日産の顔」とも言える不動産の処分・再編です。
工場は生産終了・売却・用途転換、本社ビルはセール&リースバックという形を取り、大きな構造変化が進んでいます。
追浜工場:巨大工場跡地の未来
追浜工場は横須賀市に位置し、東京ドーム約36個分とも言われる広大な敷地を持つ、日産を象徴する完成車工場です。日産はこの追浜工場について、2027年度末で車両生産を終了し、国内17拠点から10拠点への集約の一環として閉鎖する方針を明らかにしました。
当初はEV戦略をにらみ、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)との間で工場の売却・EV生産受託を含む交渉が進んでいましたが、最終的には条件面などで折り合わず決裂したと報じられています。
これにより、「海外メーカーがEV拠点として引き継ぐ」シナリオはいったん白紙に戻り、現在は国内外の複数企業との跡地利用交渉が続いているとされています。
跡地活用のアイデアとしては、
-
大型商業施設・アウトレットモール
-
物流施設・データセンターなどのインフラ系用途
-
研究開発拠点やスタートアップ集積エリア
-
一部を住宅・商業を含む複合開発
などが専門家やメディアで取り沙汰されています。
ただし、周辺道路・用途地域・インフラ容量などの制約を踏まえると、単純な「巨大ショッピングモール+タワマン街」といった開発よりも、物流・研究開発・住宅・商業をブロックごとに組み合わせた段階的な複合利用が現実的と思われますが、現実的には需要の観点からも土地利用は難しいものと考えられます。
自動車産業に依存してきた周辺企業と雇用への影響も大きく、自治体と連携したサプライチェーン再編・再就職支援を前提にした“ソフトランディング型の再開発”が求められる点も、再利用を難しくしている要因です。
湘南(平塚)工場:住宅・物流ポテンシャルの高い工業跡地
日産車体の湘南工場(平塚市)もまた、日産本体から完成車生産を受託してきた重要拠点でしたが、2026年度末で生産委託が終了し、工場の売却や用途転換が検討されています。
報道では、「大手不動産会社への売却打診」「売却へ」といった見出しが並び、工場の一部は部品工場への転換、残る土地は売却して再開発する方向性が示されています。
平塚は東海道線沿線で、湘南エリアとしての居住ニーズも高く、平坦な広い工業用地という希少性から、
-
大規模な住宅開発(戸建・マンション)
-
郊外型商業施設・ホームセンターなどの複合商業
-
物流施設・企業用地
など、多様な需要が見込まれています。
平塚市や地元経済界は、「まだまだ一緒にやっていきたい」として、部品工場としての継続や新たな企業誘致に期待を寄せつつも、雇用・税収維持と周辺住環境とのバランスをどう取るかに頭を悩ませています。
工業都市としてのアイデンティティから、住宅・サービス産業を中心とした都市へ、どの程度シフトするかが、湘南工場跡地の再開発方針に大きく影響することになります。
みなとみらい本社ビル:リースバックにより財務体質を改善
工場に続き、多くの人を驚かせたのが、横浜・みなとみらいにある日産グローバル本社ビルの売却です。
日産は2025年11月、同ビルを信託受益権の形で特別目的会社(MJI合同会社)に970億円で譲渡し、同時に20年間の賃貸借契約を締結して、これまで通り本社として使用を継続することを発表しました。
これは典型的なセール&リースバック取引で、970億円という巨額の売却代金により、日産は約739億円の売却益を特別利益として計上し、短期的な財務体質の改善につなげています。
一方、専門家からは「高額な本社ビルを手放してもオフィスはそのままでは、固定費の構造は大きく変わらない」「一時しのぎの資金繰り対策ではないか」といった懸念も示されています。
売却先を巡っては、交渉初期には米投資ファンドKKRが約900〜1000億円規模で最有力候補と報じられ、その後、台湾系自動車部品メーカー系の資本を含むSPCに最終的に譲渡されたとされています。
横浜市の山中竹春市長は、「今後も横浜で経営を続けてもらえるよう支えていきたい」としつつも、みなとみらいの顔である本社機能が横浜に残ることに安堵感を示し、雇用とまちのにぎわい維持を重視する姿勢を示しました。
ホンダとの統合破談と日産の今後
こうした不動産売却の背景には、日産がホンダとの経営統合構想を断念し、「他社に頼らず自力再建へ舵を切った」ことも密接に関係しています。
両社はEVを中心とした提携協議から、持株会社方式による経営統合の基本合意まで進みましたが、2025年初頭に統合協議の打ち切りを公表しました。
報道・関係者証言では、
-
日産は一貫して「対等な関係」を主張しており、「子会社化は到底受け入れられない」と社内で猛反発が起き、基本合意書の撤回・協議打ち切りを決めた。
-
ホンダ側は、日産の巨額赤字や不振を踏まえ、「工場閉鎖を含む抜本的なリストラ計画」が統合前提と考えていたが、日産から出てきた案は生ぬるいと受け止められた。
-
「意思決定が遅い」「社内時計が違う」とホンダ側が不満を抱き、ワンガバナンス(ホンダ親会社・日産子会社)でないと改革が進まないと判断したことが溝を深めた。
などが破談の主因として挙げられています。
商品ラインアップやグローバル戦略も重なる部分が多く、「シナジーよりも調整コストが上回る」との判断が働いたとも分析されています。
結果として、日産はルノー・三菱自動車との既存アライアンスを前提にしつつ、工場・本社ビル・その他不動産の売却で現金を確保し、EV・ソフトウェア・自動運転などの成長領域に投資する「選択と集中」に賭ける方向へ進んでいます。
神奈川の都市と日産の「その後」
追浜工場跡地は、広大な海沿い工業地帯の再編を象徴するプロジェクトとして、横須賀・三浦半島の将来像を左右するテーマになっています。
湘南工場跡地は、平塚の都市構造を「工業+住宅・サービス」へシフトさせ、湘南ブランドと物流需要を取り込む新しいエリアになる可能性を秘めています。
みなとみらい本社ビルは、所有者こそ変わりながらも、日産のロゴを掲げたまちの顔として当面は残り続けるものの、その裏側ではグローバル投資マネーによる所有と運営の分離が進んでいます。
かつて「やっちゃえ、日産」のキャッチコピーで勢いを象徴した企業が、今は工場と本社ビルを手放しながら、新たな電動化時代にどう生き残るかを模索している状況です。
その過程で、神奈川の沿岸工業地帯やみなとみらいは、メーカーの社宅・工場の街から、投資マネー・サービス産業・新たな都市開発が交錯するフィールドへと姿を変えつつあり、日産の不動産売買は、その変化を象徴する大きな節目になっていると言えます。

コメントを残す