はじめに
離婚時における「不動産鑑定」は、単なる手続きの一部ではなく、公正で円滑な財産分与を実現するためにきわめて重要な役割を果たします。以下に、その理由を法的根拠、実務、心情面も含め、簡単に解説します。
1. 財産分与の基本原則
日本の民法では、結婚生活で夫婦が協力して築き上げた財産は「共有財産」とされ、離婚の際にはこれを分割する「財産分与」の手続きが義務付けられています(民法768条)。家やマンションなどの不動産は、多くの夫婦にとって最も高額かつ重要な共有財産の一つです。
2. 不動産評価が必要となる主な理由
公正・円滑な財産分与のための客観的価値把握
離婚時、不動産の実勢価値を知らなければ、公平な分配は不可能です。不動産には「定価」がないため、評価方法や評価機関によって大きく価値が異なります。片方が過大・過小評価を主張すればトラブルになり、協議が長引く原因になります。
争い・不信感を防ぐための公的根拠
特に評価額に関して意見が一致しない場合や、どちらか一方だけが不動産を取得・居住し続ける場合、もう一方に「適正な価格の半額」を払う必要があります。その際、根拠が曖昧な価格設定では紛争が生じやすいです。不動産鑑定士による「鑑定評価書」は、公的な効力を持ち、調停や裁判においても重要な証拠力を持ちます。
不動産会社の「査定」との違い
通常「不動産会社の査定」でもある程度の目安となりますが、査定額は会社ごと・担当者ごとに基準や根拠が曖昧で幅が出やすいもの。無料査定は売却前提であり、売却せず住み続けたい・財産分与額だけ知りたい場合には向いていません。不動産鑑定士による「鑑定評価」は、国土交通省の定めた「不動産鑑定評価基準」に基づき、法律的な裏付けと客観性が格段に高いです。
調停・裁判など法的紛争時の必須資料
協議で解決できない場合、裁判所での調停・審判に発展します。この段階で最も重視されるのが「不動産鑑定士による鑑定評価書」です。不動産会社の査定書は証拠力が弱く、公的資料と認められないことも多いのです。
3. 不動産鑑定が特に有効となるケース
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評価額や評価方法を巡るトラブルが予想される場合
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収益不動産(店舗・アパートなど)、大規模・特殊な不動産(事業用物件や権利関係が複雑な場合)
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どちらか一方がそのまま住み続け、もう一方に精算する必要がある場合
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話し合いで金額がまとまらず、第三者的な根拠が必要な場合。
4. 心理的・精神的なメリット
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あちらこちらの不動産会社に依頼して見積もりを集める手間や精神的負担が軽減されます。
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客観的・公的な数字をもとに協議が進むため、「不当に損した」「納得できない」といった心のわだかまりを防ぐ助けになります。
5. 不動産鑑定の実際の流れ・費用について
不動産鑑定の依頼は、「任意鑑定」と「裁判所鑑定」の2種類があります。任意鑑定では仲介業者や弁護士の紹介で鑑定士への依頼が一般的です。費用は不動産の規模・複雑さによって異なりますが、数十万円かかることが一般的です。一方、不動産会社の無料査定と比べてコストはかかるものの、「法的根拠」としての信頼性と“紛争防止効果”があります。
他方、裁判所鑑定は、裁判所が選任した不動産鑑定士によって鑑定評価書が発行されます。費用は上記同様、数十万かかることが一般的です。
6. 結論
離婚時の不動産鑑定は、「財産分与を正しく、公平に行うため」の最も確実で客観的な手段です。単なる査定では防げないトラブルを未然に防ぎ交渉・調停・裁判でも重要な根拠となります。特に揉めそうなケースや、特殊な不動産が財産分与の対象となる場合には、鑑定を省略せず行うことが後悔しない離婚・円満なその後の人生を切り開くカギとなります。
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