不動産業において、宅地建物取引業(宅建業)と不動産鑑定業の両方を営む会社は、単なる取引の仲介にとどまらず、「価格の専門性と透明性を兼ね備えた総合的な不動産サービス」を提供できるという大きな強みを持っています。このような会社が不動産売買において有利である理由は多岐にわたりますが、本ブログでは特に①売却物件の取得価額に鑑定評価が活用できる点、②不動産の価格査定を理論的に説明できる点の二つを柱として、その優位性を整理します。
① 売却物件の取得価額に鑑定評価が活用できる点
不動産を売買する際、実際に取得した金額が分かる場合は、その金額が取得費として税務上認められます。しかし、多くの場合、特に相続や贈与を経て取得した不動産では、当時の購入価格が不明確なことが少なくありません。このようなケースにおいては、不動産鑑定評価書を活用することにより、合理的かつ客観的に取得時点の価額を算定し、税務上の「取得費」として採用できる可能性が高まります。
不動産鑑定士は、不動産の時価を適正に評価する専門家であり、評価の基準は「不動産鑑定評価基準」に基づいているため、公的な信頼性が高いです。宅建業者が単独で試算する価格査定は、一般に参考値の域を出ませんが、鑑定評価は法令上の根拠に裏付けられた正式な評価として認められます。このため、鑑定業の資格を有する会社であれば、過去の時点における適正価格を専門的に評価し、税務申告時の取得費算定において重要な証拠資料として提示することができます。
たとえば、被相続人が所有していた土地を相続した後に売却するケースを考えます。
取得費が不明な場合、通常は売却価格の5%しか取得費として認められず、その分、課税所得が過大になってしまいます。
しかし、鑑定評価によって相続時点の時価を合理的に示すことができれば、実質的な取得費としてその額を認めてもらえる可能性が高くなり、結果として納税額を適正な水準に抑えることができます。
このように、宅建業と鑑定業の双方を営む会社であれば、取引の前段階で鑑定評価を組み込み、将来的な税務上のリスクを減らした上で、取得・売却戦略を設計することが可能です。単なる売買仲介ではなく、税務面を見据えた不動産取得コンサルティングとしての付加価値を提供できる点が、大きな差別化要素となります。
② 不動産の価格査定を理論立てて説明できる点
不動産売買の現場では、価格査定の妥当性が非常に重要です。一般の仲介会社が提示する査定価格は、過去の成約事例や近隣相場をもとに経験的に算出される場合が多く、説明が「相場感」に依存してしまうことが少なくありません。一方で、鑑定業を併営している会社は、理論的根拠に基づいた評価プロセスを用いて価格を導き出すことができます。
鑑定評価では、「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」など、複数の理論的手法を用いて価格を算定します。これにより、単なる相場ベースではなく、土地や建物の特性、利用制限、収益性、地域の需給関係など、複合的な要素を定量的に分析することが可能になります。宅建業としての市場知識と、鑑定業としての分析力を組み合わせることで、価格の説得力と合理性が格段に高まります。
たとえば、収益物件を売却する際に、単に「周辺の利回りを参考にした査定額です」と説明するよりも、「収益還元法に基づき、純収益を資本還元率で割り戻した結果、この価格水準が合理的です」と説明できれば、投資家や金融機関に対しても信頼性が大きく向上します。また、個人の住宅地であっても、周辺事例の分析だけでなく、用途地域・前面道路条件・高低差等を考慮した補正を加えることで、査定の裏付けを明確にすることができます。
この理論的な価格説明力は、売主・買主双方の安心感につながります。
特に、売主にとっては「なぜこの価格が妥当なのか」を数値的に説明してもらえることで、査定額を過小と感じる心理的抵抗を軽減でき、適正価格での売り出しを判断しやすくなります。
買主にとっても、「価格に根拠がある」という信頼のもとで交渉や融資判断を進めることができます。
結果として、このような理論的査定・説明力を持つ会社は、取引の透明性を高め、市場参加者全体の信頼を獲得できます。特に企業不動産(CRE)や投資不動産の取引では、この「説明責任の果たし方」が極めて重要であり、鑑定業のノウハウを併せ持つことが大きな競争優位になります。
総括
宅建業と鑑定業を兼ね備えた会社は、不動産取引において「価格の説得力」と「税務的合理性」という二つの付加価値を提供できる存在です。単なる仲介会社が市場相場を基準に動くのに対し、このような会社は理論・制度・市場の三位一体の視点から顧客を支援することができます。①では税務対策や取得費算定の面で、②では価格説明や交渉における信頼性の面で、それぞれ顕著な優位性を発揮し、顧客にとってより安全で合理的な取引を実現します。この総合的な専門性こそが、宅建業と鑑定業を一体で営む最大の強みであり、弊社の売りといえます。
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