結論から言うと、「標準化しやすい一部の業務はかなりAIに置き換わるが、不動産鑑定士という職業そのものが完全に代替される可能性は当面は低い」というのが私の見方です。
代替されやすい業務
AIや自動査定システムは、膨大な取引事例・公的データ・画像情報を短時間で処理できるため、以下のような業務は強く自動化が進みます。
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机上査定・簡易評価(レインズや公示・路線価をベースにした概算価格算出)
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比準事例の検索・抽出、統計処理、資料作成の定型部分
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金融機関向け大量評価やポートフォリオ分析など、スケール重視の業務。
この領域だけに依存していると、AIとシステムに仕事を大きく奪われ、単価・案件数ともに厳しくなる可能性は高いです。
代替されにくい役割
一方で、不動産鑑定士にはAIが苦手とする「文脈判断」や「利害調整」が求められる場面が多く、ここは当面人間側の強みとして残ります。
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現地調査での違法増築・越境・近隣トラブルなど、データに現れないリスクの発見と評価
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相続・訴訟・M&Aなどで、利害関係人の事情や交渉力を踏まえた価格の説明
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用途変更・開発余地・複雑な権利調整(底地・借地、区分所有トラブル等)を踏まえたシナリオ評価と提案
これらは「単に価格を出す」のではなく、「価格の背景を説明し、意思決定を支えるコンサルティング」であり、現状のAIは補助にはなっても主体にはなりにくい領域です。
今後求められる鑑定士像
各種の将来予測では、「AIで置き換えられる鑑定士」と「AIを使いこなして付加価値を高める鑑定士」の二極化が進むと指摘されています。
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データ処理や定型レポート作成は積極的にAI・システムに任せる
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自身は「案件設計」「論点整理」「説明責任」「交渉支援」など、人間にしかできない部分に時間を振り向ける
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AIや不動産テックの仕組みを理解し、クライアントに「AIの結果をどう解釈し、どう使うか」を助言できる立場になる
したがって、「AIと競争する」のではなく、「AIを前提とした鑑定・コンサル実務」に自らをアップデートしていく鑑定士は、むしろ今後も評価される可能性が高いと言えます。

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