不動産鑑定の世界でいう「調査報告書(簡易鑑定)」と「鑑定評価書(正式鑑定)」は、法的位置付け・評価手続・利用場面・証拠力のいずれも性格がまったく異なる別物として理解する必要があります。
法的性格と名称の違い
まず押さえるべきは、「簡易鑑定」は法令上の正式名称ではなく、あくまで俗称だという点です。
不動産鑑定評価基準に則って行われる正式な鑑定だけが、不動産鑑定士法に基づく「不動産の鑑定評価」として扱われ、裁判・税務・行政などで「適正な時価(正常価格)」として原則通用します。
これに対し、簡易な評価は、現在は「調査報告書」といった名称で提供されるのが原則であり、「簡易鑑定」という文言を成果物に用いることはしない運用になっています。
評価手続・調査深度の違い
本鑑定は、不動産鑑定評価基準に全面的に準拠し、用途地域・法規制・権利関係・環境要因・収益性等を体系的に調査し、三方式の適用可否検討や資料の検証など、一連の評価プロセスを網羅的に実施する点が特徴です。
一方で簡易鑑定(価格等調査)は、依頼人内部の参考利用を前提に、現地調査や役所調査の一部を省略したり、土壌汚染調査や建物内部調査などの詳細な確認を割愛するなど、手続きを簡略化することが一般的です。
そのため、簡易評価の価格は「正常価格を目指した価格」ではあるものの、あくまで概算的なものにとどまり、「正式な正常価格」とは法的には異なる位置づけとなります。
利用目的・対外的効力の違い
本鑑定は、相続・遺産分割、訴訟、企業会計、担保評価、公共用地取得など、利害関係人が多数存在し、第三者にも提示することを前提とした案件で用いられます。
このため、依頼者以外の者(相続人、金融機関、税務署、市区町村など)にも提示可能な「対外的効力」を持つ資料として作成され、その信頼性が法令上担保されています。
これに対し簡易鑑定は、交渉のたたき台、社内検討用資料、同一物件の短期再評価など、「手元資料」としての利用を前提とし、原則として依頼者内部での活用に限定されます。
利害関係人全員の承諾がある場合など、一定の条件下では簡易評価で足りるとされる場面もありますが、それでも本鑑定と同等の法的効果を期待することはできません。
成果物の形式と説明責任の違い
本鑑定では「鑑定評価書」が作成され、評価の目的、条件、前提、調査内容、適用した方式とそのウエイト、価格形成要因の分析などが詳細に記載されます。
一方、簡易鑑定では「調査報告書」といった形式を取り、評価基準に全面的には則っていないこと、簡略化した手続きとその理由、正式鑑定を行った場合には結果が異なる可能性があること等を明示するのが一般的です。
このように、簡易鑑定はコスト・スピード面でメリットがある半面、法的根拠や対外的な証拠力という点では、本鑑定とは明確に線引きされるべきサービスと整理できます。

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